昭和30年代前半は空前の「貸本ブーム」でした。その中心となっていたのは、『街』(東京:セントラル出版社)と『影』(大阪:日の丸文庫)でした。いずれも単行本スタイルの定期刊行物で、全国の貸本屋さんの「目玉」としてとても人気がありました。当時は「劇画」という言葉はありませんでしたが、この『街』と『影』のもとに集まった漫画家たちの中から、ストーリー漫画を「劇画」と呼ぼうという声が生まれました。そして昭和39年に月刊誌『ガロ』(東京:青林堂)が創刊されるに及び、「劇画」というフレーズが漫画の新しいジャンルとして定着していきました。 私が描いていたのは『街』です。高校生の頃、新人作品を募集していたので、それに応募したところ、いきなり「新人賞」を受賞。それを機に原稿依頼が殺到し、学業そっちのけで描きまくりました。わずか2年余りの間に、九鬼誠のペンネームでおよそ20作品を『街』に発表させていただきましたが、東京へ出ることを断念したことにより、高校卒業と同時に劇画も卒業しました。 しかし今から思えば、劇画の勃興期に参加でき、思いっきり青春を燃焼できたことは、たいへん貴重な思い出です。 |
▲新人賞を受賞した『雪が降って来た』 1958年:「街」20号より |